
はじめての椅子
子どもに贈る「はじめての椅子」は、大人が想像するよりもずっと大きな意味を持っています。
座るための道具である前に、その子が人生で最初に手に触れる“自分だけの家具”。
ひとの暮らしと木の時間が、初めて交わる瞬間でもあります。
もう一昔前という感覚になりますが、我が子が一歳の誕生日を迎えるとき、
その節目に寄り添うための椅子をつくりました。
「ただ座れるだけではなく、これからの時間に寄り添う小さな相棒を」
そんな想いから始まった椅子づくりでした。
小さなからだにとっての“大きな道具”
一歳を過ぎると、子どもはつかまり立ちをしたり、歩き始めたり、
世界を少しずつ自分の足で確かめようとしはじめます。
その頃の子どもにとって、椅子は単なる家具ではなく、
背伸びすればなんとか届く、ぎこちない手つきで触れる“大きな道具”です。
だからこそ、はじめての椅子は大人の縮小版ではなく、
子どものからだと「これからの成長」を象徴する存在であるべきだと考えました。
背もたれはあえてつけず、もたれて座ることよりも、持ち上げたり、寄りかかったり、
つかまり立ちをしたり──その自由な動きに寄り添うためです。
自分で持てる“軽さ”と、安心して触れられる“やわらかさ”
子どもが道具と仲よくなる最初のきっかけは、「自分で動かせるかどうか」です。
そこで、左右に手掛けをつけ、小さな手でも自然に持てる形にしました。
フレームはできるかぎり軽く、でも頼りなさを感じない強さを残すように。
そして座面にはペーパーコードを選びました。
あたたかく、やわらかく、座っても触っても心地よい素材。
編み込まれた線が小さな体をやさしく受け止め、
座るという動作に“安心”をひとつ与えてくれます。
すべては、子どもが“自分の椅子”と出会ったとき、
道具に触れる手が自然にのび、からだがすっと落ち着くように。
ファーストバースデーに立ち上がる、小さな背中
完成した椅子を迎えた誕生日の日。
両手でしっかりと手掛けを握り、
ぐっと踏ん張って、はじめての椅子につかまり立ちをしました。
ほんの数秒の出来事でしたが、
“この椅子は、この子の最初の相棒になる”
感慨深い、忘れられない瞬間です。
家具はただ使われるだけでなく、
人の時間とともに記憶を刻んでいきます。
この小さな椅子も、これからその子といくつもの景色を見て、
ゆっくりと、穏やかに育っていくのでしょう。
はじめての椅子を、未来の相棒に
子どもの成長は思いがけない速さで過ぎていきます。
けれど、その速度に寄り添いながら、
椅子はゆっくり、静かに“その子のかたち”に育っていきます。
もしあなたの暮らしの中にも、
最初の一脚を選ぶ瞬間が訪れたなら、
「長く相棒でいてくれる椅子」という視点で選んであげてください。
▶ 作品ラインナップはこちら
▶ Instagramで制作風景や木のスツールを見る
小さな背中に寄り添う椅子は、
やがてその子の人生の景色をそっと支える道具になります。
BWT